PIC AVR 工作室->TopPage->実験くん->汎用オペアンプでビデオ信号

汎用ビデオアンプでビデオ信号を扱ってみる

経緯

まず大前提として、このサイトの管理人は貧乏人である。ビデオ信号が扱えるようなオペアンプを、 ポンポン買えるほどのお金持ちではない。

さて、ビデオ信号を扱うことが出来るオペアンプは、スルーレートが数百~数千V/usでユニティーゲインが数百MHzとけた違い のスペックとなっているが、上述の通りビデオ信号が扱えるオペアンプは高価である。

一方、汎用のオペアンプはスルーレートが数V/us程度でユニティーゲイン帯域幅が数MHz~10MHz程度というものが多いが、 一般に汎用オペアンプは安価なものが多い。

ところで、あらゆるビデオ信号を高品質に処理するという用途なら当然ビデオ用オペアンプが必要になるが、20MHz程度のマイコンで 生成できるビデオ信号であれば、計算上それほどのスペックを必要とはしないはずである。例えば、 スプライト表示器では1ドット表示に要する時間は6クロック分=0.3us。この程度ならスルーレートは10V/us前後、 ユニティーゲインが数MHzでも扱える計算になる。

そういった皮算用から、なるたけ安価なオペアンプでビデオ信号を扱ってみようという貧乏くさい考え から実験に至った。

目的

スルーレート、ユニティーゲインが異なる各種オペアンプを使用して、どの程度のスペックでどの程度の映像が得られるのかを検証する。

一方各種オペアンプのデータシートは電源が±15V時で記されていることが多く、低電圧で使用した場合実際のスルーレートや ユニティーゲインは低下することが予想される。これを考慮し、電源電圧にもバリエーションを設定し、電圧によってどの様な 影響が及ぶのかを観察、検証する。

方法

スルーレート、ユニティーゲインが異なる各種オペアンプを用意する。(ビデオ用オペアンプも含める)

テストボードV1のビデオ出力の両極を75オーム抵抗につなぎ、その両端の電圧を各種オペアンプに入力。

ボルテージフォロワを用いて同じ電圧で出力する。

その出力をテレビに映して観察すると共に、ビデオキャプチャーボードでPCにも取り込み、オリジナル映像と比較する。

また、電源にも以下のとおり3パターンのバリエーションで行う。

以下に、実験に使用した回路図を示す。

以下に、今回使用したオペアンプの一覧を示す。

後日行った追加実験分の結果はこちら(クリックするとページ内リンクします)。

実験結果

オリジナル映像(オペアンプを通さない映像)

ゴースト、ドットのズレ、にじみ、ノイズともに認められない。

オペアンプからの出力映像(キャプチャー画面)

以下に、各アンプにおける出力映像(一部分を切り出したもの)を示す。

オペアンプスルーレートユニティーゲイン±12V±5V5V単電源
LM71714100V/us200MHzテスト見送り
(ノイズのため)
テスト見送り
(ノイズのため)
LM6264300V/us175MHz映像出力不可
(シンクロせず)
NJM211415V/us13MHz映像出力不可
(シンクロせず)
NE55328V/us10MHz映像出力不可
(シンクロせず)
NJM45805V/us15MHz映像出力不可
(シンクロせず)
LM3581MHz映像出力不可
(シンクロせず)
映像出力不可
(シンクロせず)
映像出力不可
(シンクロせず)

LM7171のノイズについて

LM7171からの出力映像を、レタッチソフトで輝度とコントラストを調整し、ノイズが判りやすいようにしたものを示す。

画面全体に波状のノイズが乗っているのが判る。テレビ画面上ではこのノイズは一定ではなく、時間の経過によって波状に うねっている様子が見て取れる。

実験結果のまとめ

(1)±12Vの場合

(2)±5Vの場合

(3)5V単電源の場合

考察

スルーレートと出力映像について

スルーレートは、その単位をV/usであらわし、出力電圧が1マイクロ秒あたりに何ボルトの変化を 起こせるかをあらわしている。つまり、出力電圧の「傾きの最大値」である。(入力信号がどんなに速く変動しても、 出力信号はスルーレート以上の変化を起こせない)

ビデオ信号対応のオペアンプでは、もちろんドットのエッヂが綺麗に出ることは想定どおりであった。

一方、汎用オペアンプ程度のスペックの場合、主にどの性能によって映像…特にエッジの鈍化が起こるのかが、 今回の実験によって見えてきたといえる。つまり、エッジの鈍化はユニティーゲイン周波数によるのではなく、 スルーレートの高低によって映像の劣化が起こっていることがキャプチャー画像から見て取れる。

今回使用した映像信号は、1ドットのサイズが6クロックで、ペデスタルレベル~白が0.7Vppである。

この0.7Vppという電圧幅は、例えばNJM2214のスルーレート=15V/usなら0.04666…マイクロ秒で 達することができる。つまり20MHzなら約1クロックに相当する時間である。これはオリジナル信号の精度(20MHzの マイコンから出力される信号)と同程度の細かさであり、これがギリギリ映像の劣化が起こらない限界であると思われる。

一方、それよりもスルーレートが低いアンプの場合、オリジナル信号と比較して電圧の変化が鈍くなる。 例えば、NE5532の8V/usなら0.0875マイクロ秒(20MHzで約2クロックに相当)、 NJM4580の5V/usなら0.14マイクロ秒(同約3クロックに相当)。この数値からも 映像の劣化が生じることは想像できる。

これらのことから、0.7Vppの映像信号を劣化させずに表示できるスルーレートの限界は15V/us程度 であると思われる。

以上のアンプはスルーレートの大きいビデオ信号用アンプ、もしくは汎用オペアンプの中でもスルーレートが大きいもの (計算上ギリギリ表示が可能そうなもの)を選んだため表示自体が可能であった。一方、単価が非常に安いLM358に ついては出力映像のシンクロさえ取れず、映像が流れてしまった。LM358のスルーレートは明示されていないが、 一般的なオペアンプと同レベルの1V/us程度、もしくはそれ以下であろうと仮定すると、0.7Vの上昇下降には 14クロック分に相当する時間が必要と考えられる(2.5ドット分)。1V/usという仮定が正しいとすると 1ドットの分解能すら無いため、表示は上手く出来ないことは納得がいく。

水平同期信号はさらに深刻で、通常の水平同期信号は長さ4.7us、ペデスタルレベル(0V)からシンクロレベル(-0.3V) への立下り時間は140ns以内となっているが、立下りの時間だけでも約6クロック分(0.3us=300ns)と2倍以上の 時間を要し、水平同期信号としての許容範囲を超えたものと想像する。

ユニティーゲイン周波数と出力映像について

ユニティーゲインとは、入力電圧と同じ電圧(=ユニティー、すなわち1倍)に増幅が出来る限界の周波数である。 つまり、ゲインが0dbとなる周波数のことである。ユニティーゲインの周波数がビデオ信号の周波数よりも高く ならないと入力信号より出力信号が小さくなるため、ボルテージフォロワでは出力電圧不足となる。

今回の映像信号では、映像信号の周波数が最も高くなるのは白ドット、黒ドット、白ドット、黒ドット…と 交合に存在するケースである。1ドットは6クロックなので、白と黒のセットで12クロック。20MHzマイコンに おける12クロックは1.666…MHzの周波数となる(これは、白と黒の信号が正弦波と仮定した場合であり、 実際は方形波なのでもう少しシビアではあるが)。この周波数と各オペアンプのユニティーゲイン周波数を 比較すると、各段にオペアンプのユニティーゲインの方が高い。

また、NTSCビデオ信号で最も高周波となるのは、バースト信号やサブキャリア信号の3.58MHzである。 今回使用したオペアンプはどれもこの3.58MHzの数倍と大きく上回っており、特に問題ないと考えられる。

ただし、ユニティーゲイン周波数における出力電圧は必ずしも1Vを上回っているとは限らず、 次に示す最大出力電圧振幅周波数と併せて考える必要がある。

最大出力電圧振幅周波数特性と出力電圧について

最大出力電圧振幅周波数特性とは、入力信号の周波数に対し、(増幅率に関わらず)最大何Vまで出力が可能かを示している。 一般に、入力信号がある一定周波数以上に高くなると、出力電圧が急激に小さくなる傾向がある。このことを念頭に、 今回使用したビデオ信号の周波数と出力電圧について考える。

今回題材にしているビデオ信号で最も周波数が高くなるのは、上記のように白ドット、黒ドット…のケースで約1.666…MHz。

今回使用したオペアンプは、最大出力電圧振幅周波数特性の数値が示されておらず、グラフ表示のみのため 具体的な数値を取り上げることができないが、グラフで見る限り1.666…MHzであれば 0.7Vppの出力は問題ないレベルと考えられる。

なお、正式なカラービデオ信号を扱うためには3.58MHzよりさらに大きい電圧が扱えるオペアンプでなければならない。

電源電圧について

まず最初に、5V単電源のことについて考えることとする。

今回使用したオペアンプはすべてrail-to-rail対応のものではない。通常オペアンプは入力電圧、出力電圧ともに電源電圧 の範囲ギリギリまでを扱うことは出来ない。rail-to-rail対応のオペアンプというのは、電源の電圧ギリギリまでの信号を 扱うことが出来るものを指す。

5V単一電源の場合、負電圧側に0V、正電圧側に5Vを供給、つまり電源電圧の幅は5Vppということになる。rail-to-rail対応の オペアンプであれば0V~5Vの信号を扱うことができる。

今回使用したビデオ信号は、ペデスタルレベルではなくシンクロ信号のレベルをグランドとしてオペアンプに接続しているため、 扱うべきビデオ信号の範囲は0V~1Vとなる。

しかし、今回使用したオペアンプは、rail-to-rail対応ではないため、0Vの電圧を扱うことが保証されていない(出来ない)。 よって、5V単電源でビデオ信号のシンクロが出来なかったのはrail-to-rail非対応のオペアンプを使用したことが原因と考えられる。

ちなみに、rail-to-rail対応の市販オペアンプのスペックをいくつか調べてみたところ、そのスルーレートは 高くてもおよそ1V/us程度であった。このことから考えると、ビデオ信号を5V単電源で扱うことは 現在のオペアンプのラインナップではほぼ不可能と言うことがわかる。また、カタログ値は通常±15Vでの スペックが表示されているが、スルーレートは電源電圧の幅が小さくなるについれて低くなる傾向がある。 もし、rail-to-rail対応でスルーレートがある程度高いオペアンプが存在したとしても、5V単電源では 電源電圧が低すぎて使えない可能性があることに留意。

次に、正負両極の電源を使用した場合について考える。

±12Vは電圧幅24V、±5Vは電圧幅10V、5V単電源は電圧幅5Vである。

キャプチャー画像からは、±12V→±5V→5V単電源と電圧幅を小さくするたびに汎用オペアンプにおける画質の劣化が 生じていることが見て取れる。(特に5V単電源では前述の通りビデオ用オペアンプでも映像の出力が出来なかった。)

オペアンプのスルーレートは、一般に電源電圧が小さくなるにつれて低下する傾向がある。各アンプの各電圧による キャプチャー画像を通して、今回の実験でも電源電圧の幅が小さくなるにつれて、映像の劣化が起こることが見て取れた。

スルーレート、電源電圧について、おおよそどの程度の値を適用すべきかが今回の実験で見えてきたといえる。

実際には、電源電圧の幅が小さくなるにつれ、スルーレートだけでなくユニティーゲインや最大出力電圧振幅周波数特性も 低下していく傾向がある。これらについても同様に考慮が必要である。

以上を踏まえ、今回の実験を総括したい。

考察まとめ

オペアンプを使用してビデオ信号…特に今回のような1ドットが0.3us(6クロック@20MHz)程度の白黒映像…を 扱う場合、スルーレートが15V/us以上、オペアンプへの供給電圧は最低でも±5V、できれば±12Vの電圧を使いたい ということが判った。

また、もっとドットサイズがもっと大きい場合でも、シンクロ信号の有効性を考慮するとスルーレートは5V/us程度かそれ以上 であることが限界であるということが判った。

NTSCカラー信号の場合はドットサイズ(1ドット=0.3us)よりも周波数の高いバースト信号やサブキャリア信号を 扱う必要があるため、スルーレートやユニティーゲインについては今回の結論以上のスペックを必要とすると思われるが、一方 コンポーネント信号やD端子(D1)で使用するビデオ信号であれば、スルーレート15V/us程度でも 実用になるであろうということが判った。

今後について

今回使用したオペアンプは6種類であるが、市販されているオペアンプの豊富さ比べると極々わずかといえる。 スルーレートにしてもユニティーゲインにしてもその他のスペックにしても、もっと数多いオペアンプを題材にして 実験を積み重ねることで、実用の境界線が見えてくると思われる。また、電源電圧についても3通りしか実験を行っていない。 実験のバリエーションとしては少々物足りなさを感じる。

今回の実験の延長として、今後はオペアンプや電源電圧のバリエーションを増やすことで、「スルーレート=15V以上」という 今回の結論の妥当性や、もっと小さいドットを使用した場合に必要なオペアンプのスペックについて、さらにデータを深めて いきたいと思う。

追加試験

後日追加実験を行ったオペアンプのキャプチャー画像とその評価を以下に記す。

キャプチャー画像

オペアンプスルーレートユニティーゲイン±12V±5V5V単電源
NMJ072D20V/us5MHz?テスト見送り

評価

オペアンプ評価
NMJ072D±12V、±5Vともに好結果。映像に歪みなどは見当たらない。
エッジは若干ぼやけている感があるものの、NJM2114DDの±12Vと同程度。特に±5Vでも像が安定しているところが良し。
画面にノイズなど特に生じていない。マイコン用途では必要充分なスペックという印象。