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NJM2360の出力電力をテスト
昇圧/降圧用スイッチング電源用IC「NJM2360」を使って、単三のニッ水電池からどの程度の電力が引っ張り出せるのかを実験してみました。
ちょっとしたステッピングモーターくらいは簡単に回せるだけの電力が取り出せたのでまとめておきます。
経緯
チャージポンプ・スイッチドキャパシタを使った昇圧/降圧電源回路では電流をあまり取り出すことができないので、 モーターを負荷にして回すような電源といった用途には使えません。(マイコンの高電圧ライターとか、オペアンプの低出力用途などでは便利だけど)
小さなステッピングモーター程度なら、1~3ワット程度取り出せればそこそこのトルクで回すことができると思うので、 それを念頭に実用的な電源として探してみたところ、NJM2360+インダクタなら少ない部品数、部品代でそこそこの電力が取り出せそうだなと。
で、このNJM2360を使って色々と条件を変えながら様子を見てみました。
実験の背景など
取り出す電力について
この電源の用途として念頭にあるのは、やっぱり例の4号機です。
4号機でドライブさせたいステッピングモーターは目下COPALのSPG20-332(SPG20シリーズで1コイルあたり68Ω、1ステップ0.75度タイプ)で、 コイツを1-2相励磁で定格ぎりぎり2ワット程度でドライブすることを想定しました。(←瞬間的には2-2相励磁の3ワットに近い電力が必要)
NJM2360のアプリケーションノートによると、NJM2360内蔵のスイッチングトランジスタの定格から考えておよそ2ワット以内の出力まではIC単体でOK。 それ以上の出力が必要な場合はICの外部にスイッチング用トランジスタを組み合わせて使うこと…と書かれています。
つまり、今回の用途では2ワットを超えるため、外部にスイッチング用トランジスタを取り付けて使わないといけません。
また、68Ωの1-2相励磁であれば、マイコン用電源の5V前後のままではとても2ワットクラスは取り出せないので「昇圧」が前提になります。 昇圧回路を組んで外部トランジスタを組み合わせる使い方についてはNJM2360のアプリケーションノートp38以降で触れられているので、 回路や定数計算はそれを参考にします。
で、例によってオイラは貧乏なので、できるだけ安い部品で大出力を狙ってみようというわけです。
回路について
モーター周りの回路は以前arduinoの実験で使った回路をそのまま使います。
電源回路周りですが、NJM2360の周辺回路はブレッドボードだと大電流に耐えないので、万能基板を使って専用ボードにしました(詳細は後述)。
この専用ボードを使って、色々なインダクタをとっかえひっかえして出力や効率を眺めてみてから、それを踏まえてモーターを回してみようという流れです。
インダクタについて
インダクタは、インダクタンスが同じ値でもスペックや用途などによって様々な大きさ・形状の製品が存在します(これも詳細は後述)。
写真のように、一応電源回路に使えるインダクタを色々集めてみました。小さいのは1A程度でインダクタンスも小さいものだったり、 大きいのは5A流せてインダクタンスもそこそこ大きいものまで。
元々オイラはインダクタ関係については正直弱いので、今回はこのあたりについても理解を深める意味で色々実験してみました。 自分なりの考察をあとでまとめます。
実験の流れ
基礎的な動作実験から実際にモーターを回すまで、何段階かに分けて実験をしてみました。
NJM2360をとりあえず使ってみる
インダクタを使った回路といえば結構動作の安定が神経質だったりして、たとえば以前TL499を使ってブレッドボードで実験したときにはうまく昇圧できませんでした。 このときはブレッドボードを使ったことが原因だったようですが、ほかにも回路の引き回し(配線が長かったり、インダクタが発する磁界が周囲に影響したり)も影響するようです。
そういった動作の不安定さの有無を、とりあえずブレッドボード上で調べてみました。
色々な条件で出力電力を比べてみる
専用回路を作ってみて、大電流に耐えるようにして実験をしてみました。
今回はインダクタのスペックを色々取っかえひっかえし、どの程度の負荷抵抗でどのくらいの電圧が取り出せるのかを調べてみました。
本当は、インダクタ以外にもタイミングコンデンサ容量(→発信周波数を制御)やスイッチングトランジスタ(ベース電流とかの設定)周りの電流設定抵抗、 インダクタへの電流制限抵抗(瞬間的に電池から取り出す電流に関係)なども色んなバリエーションで実験したいところですが、 欲張りすぎると回路途中の繋ぎ目でまたブレッドボード同様悪さしかねないので、今回はとりあえずインダクタと出力電圧のバリエーションだけにとどめました。
モーターを実際に回してみる
それなりの電力が取り出せたとしても、実際にモーターが回らないとお話になりません。 以前arduinoの実験で使った回路をそのまま使って、 どのくらいのトルクが取り出せるのかを調べてみました。
NJM2360をとりあえず使ってみた
上述のように、以前TL499で昇圧回路をブレッドボードで動かしてみたときにはうまく動いてくれませんでした。 NJM2360もそんな風にセンシティブなのか、それとももっと安定しているのかを試してみました。
結論から言うと、TL499とは違ってかなり安定して動作してくれました。出力電圧の設定部分(可変抵抗をグルグル)で出力電圧を上げたり下げたりすると、 期待通りに電圧が上がったり下がったりします。
負荷に掛ける抵抗が大きい(1kΩ=低負荷)場合なら15Vくらいは簡単に出力されます。 この負荷をモーター同様に68Ω(1相を想定)や34Ω(2相を想定)といった大負荷に換えてみると、どうやら取り出せる電圧(電力)には頭打ちが生じるようです。
その際の回路と定数について。
まずはデータシートどおり(外部トランジスタを使わずに)実験してみたところ、1ワット少々までは安定して動作しました。 ただし…、データシートでは2ワット程度を境にしてそれ以上なら外部にスイッチングトランジスタを増設せよとのことなので、 大出力に耐えるトランジスタを奢ってみたんですが、それでも2ワットすら届きません。
といわけで、ブレッドボードを使った実験では1ワットちょっとまでは比較的容易に取り出せたんですが、 それ以上となると外部に大容量のトランジスタを増設しても各パーツのスペック以下しか電力が取り出せませんでした。
計算してみると、電池から流れ出す部分の電流が瞬間的に数A程度になります。このレベルになるとさすがにブレッドボードでは駄目なようです。
専用ボードを使って実験
大電流に耐える専用ボードを作ってみた
ブレッドボードで大電流を扱うのは無謀だということがわかってきたので、仕方なく専用ボードを組んでみました。さっきも出てきたこれ↓
電池は単3ニッ水4本が入るようになっていて、メインパーツはもちろんNJM2360(写真中央)。
スイッチング用トランジスタには2SC3709を。比較的大電流(6A)で、Vce(sat)が0.4Vと小さく、動作も速い(Ft=90Mhz)、hFEもそこその中から入手性も加味してチョイス。 ベース電流が小さくて済むようにhFEの大きいYクラス。
インダクタ周りは、簡単に取替えができつつ大電流にも耐えるように、大き目のコネクタにネジで付け外しできるものを探してきました。(写真上部)
負荷抵抗は、ワット級の電力消費で熱が出るのでセメント抵抗(3ワット品)をチョイス。並列で2個まで取り付けできます。 今回は68Ωのセメント抵抗2個まで取り付けできるようにしてあって、34Ω負荷まで掛けられるようになってます。 あとでモーター取り付けて実験するときには、このセメント抵抗の代わりにモーターを繋いで使うという目論見。
回路図
その回路図です。(クリックで大きくなります)
基本的にはアプリケーションノートに載っている計算式を元に、入力電圧=4.4V程度(電池消耗時を想定)、出力電力=3ワット程度、 という感じで計算するとインダクタンス≒17.0uHとなり、これを念頭に各定数を見直したものです。
細かい事いうと色々あるのでほぼ端折りますが、使った可変抵抗は実測で12kΩほどあったり(不良品)、出力側電解コンの耐圧が25Vと意味無く低かったりするのは内緒です。 なお、出力側にはパスコンをあえて取り付けませんでした。そうすれば、オシロであたった時にリプルやスパイクがそのまま見えるはずなので。 (入力側には1000uFとパラで0.1uFを取り付けてあります)
使用するインダクタ
インダクタンスや重畳可能な電流についてバリエーションをそろえるという意味で、写真にあるようなインダクタをそろえてみました。
inductance(uH) | Rated Current(A) | complement | |
A1 | 22 | 1.2 | |
A2 | 22 | 1.3 | TDK TSL0709 |
A3 | 100 | ? | |
A4 | 150 | 1.0 | NEC TOKIN SBCP-80151H |
A5 | 10 | 3.8 | SAGAMI ELEC RTP8010-100M |
B1 | 10 | 2.9 | TAIYO YUDEN |
B2 | 22 | 2.3 | TAIYO YUDEN |
B3 | 33 | 1.9 | TAIYO YUDEN |
B4 | 47 | 1.5 | TAIYO YUDEN |
B5 | 22 | 2.9 | TDK TSL1112S |
B6 | 220 | 1.3 | TAIYO YUDEN |
C1 | 40 | 3.0 | NEC TOKIN SN10-300 |
C2 | 100 | 5.0 | NEC TOKIN SN12-500 |
実験結果
実験の結果をexcelシートに纏めました。(クリックでダウンロード)
excelシート上に出てくるインダクタの番号は、インダクタの写真上に振られている番号と1対1対応しています。
表の見方などは後述の考察で触れるとして、とりあえず数ワット級の出力でも結構簡単に、しかも安定して取り出せることが判りました。
負荷抵抗に掛かる電圧を、オシロでも眺めて見ました。リプルやスパイクがそこそこ出ます。必要に応じて対策要。(考察で触れます)
実際にモーターを回してみる
回し方
先述のとおり、以前arduinoの実験で使った回路を使いました。 パワーMOSアレイもMP4401をチョイス。便利。
モーターはSPG20-332を中心に、SPG20-1362、SPG20-310も試してみました(SPG20-310は千石で買ったもの)。 スケッチも流用しましたが、少し速めに回転させる為に割り込み間隔を100m秒から10m秒に変更。
モーター自体にはせいぜい200~300mA程度しか流れないので、モーター周りはブレッドボードで済ませました。
懸案の「どのインダクタを使うか…」ですが、B2をチョイス。22uHで2.3Aのもの。アプリケーションノートでは理論上これ以上のものを使えという限界ぎりぎりのもの。 ぎりぎりってところがミソ。
結果
結果、特に問題なく回りました。めでたし、めでたし。当初の目論見達成!(あたりまえか…)
SPG20-332とSPG20-1362は共に68Ω品。これらは9Vでドライブしてみました。9Vで1-2相励磁(相当)だと平均でほぼ2ワットということになります。 この2者、ギヤ比がちょっとだけ違うんですが、ほぼ同じくらいのトルク。まぁ、ギヤ比が少しだけ低速なSPG20-332の方が微妙にトルク太い感じ。 SPG20-1362は一回り小型で高速なのにむしろがんばってます。さすが新型。
一方SPG20-310。180Ω品なので可変抵抗を目一杯回して15Vほど掛けてみました。平均で2ワットまでちょっと届かないのですが、 ギヤ比が数倍低いので3つの中ではさすがに最大トルク。(速度はちょっと遅いけど…)
ちなみにB2以外のインダクタの件。実際はA2(22uH、1.3Aのもの)でも動くことは確認しました。さすがに4ワット超出せたというだけあります。 ただ実際は余裕を見込んでおかないと電池がぎりぎりまで消耗したときに不安定になったりするでしょうから、実用上は慎重にチョイスする必要がありそうです。
駆動中の電圧変化について
モーターを駆動している間、電池の出力電圧とモーターへの出力電圧とをテスターで測っていました。
さすがに出力電圧は不安定な値が表示されず一安心。
それ以上に気になる電池の出力電圧ですが、電池の消耗に伴って徐々に電圧が徐々に低下していく様子が見て取れました。 およそ1分間あたり0.01V程度。1~2時間でニッ水電池が空になるくらいでしょうか。大体目論見どおり。 二次電池は過放電にならないような制御が必須なわけですが、この電池両端の電圧を監視するだけで簡単に制御出来そうです。
といった辺りも加味して、後述の考察で色々触れてみたいと思います。
考察
ココが一番大事。なんと言ってもアプリケーションノートほとんどそのまま動かしてみただけなので、 「だからなんなのさ…」をちゃんと纏めておかないと…ね。
(1)出力電力について
さすがに専用回路+外部トランジスタの組み合わせを使うと、いとも簡単にモーターくらい回せてしまいます。何の心配も要らないほど安定して動きました。 さすが、あちこちで使われてきた、いい意味で「枯れた」ICといった感じ。
ニッ水電池4本でSPG20-332をマイクロステップで動かし、フルトルクを搾り出すのは簡単なお話だったようです。 もう少し大きなステッピングモーターでも、トランジスタやSBDを選べば安定した昇圧が可能みたいです。
(2)実験バリエーションについて
今回は、タイミングコンデンサーは330pF固定だし、SBDもスイッチング用トランジスタも1種類のみしか使ってません。 本当は、発振周波数やSBD・トランジスタの電圧降下などについてバリエーションを設けたかったんだけど、そこまではできませんでした。
まぁ、ニッ水4本でちゃんと安定して動くパターンの一つは判ったので、贅沢言わなければ今回の回路を使いまわしするのがいいかもしれません。
(3)使用するインダクタについて
計算で求まった22uH・数アンペアのクラスなら今回の用途には十分だったようです。それがわかっただけでもオイラ的には実験の価値があったというモノ。
しかも、実はスペックぎりぎりの重畳可能電流のもの(1.3アンペア品)でさえ4ワット以上取り出せたので、実はスペックぎりぎりでも何とかなるのかも知れません。 TL499使って単三1本から5Vを絞りだそうとしたときの実験に比べれば、はるかに安定した動作が得られてなにより。
さて、アプリケーションノートを元に計算して出てきた「22uH」というインダクタンスについて。
当初単純に、インダクタンスが大きければたくさんの出力が得られるんじゃないの?と思ってて、けちけちせずに1mHのインダクタンスとか使えばいいジャン! って思ってたんだけど、そうではないみたい。また、アプリケーションノートを元に算出したインダクタンス(今回なら17uH)っていうのはどう解釈すればいいのか? が当初よく分からなかったんだけど、実験を通して判ったのは、17uHよりも大きい必要ありってことだったみたい。
ちなみに、インダクタとコンデンサ。比べてみると似てるところと違うところが見えてきます。多分こんなことなんだろうなぁ、と。
似てるところ:
物理的に大きい製品の方が、小さいのに比べてたくさんの電力を蓄えられる。
違うところ
エネルギーの蓄え方。コンデンサは入力した電力を直接「電荷」として蓄えるので、蓄えた電荷を放出する際にはその両端の「電圧は入力時そのまま」であることがポイント。
一方インダクタ。入力した電力を一旦「磁束」として蓄えて、放出時にまた電荷として放出するので、「電圧は負荷によって変化する」ってことがポイント。 自由に電圧を制御することが可能だなぁ…と。
トランスのような相互インダクタンスだけでなく、こういうチョークコイルの自己インダクタンスがどんな風に機能するのかがようやく分かった気がします。
さらに…
なぜ、物理的にちっちゃいインダクタは「インダクタンス値」のわりにエネルギーを蓄えておけないのか。データシート見ててなんとなく分かった気がします。
インダクタのデータシートを眺めてみると、”同じ製品群(物理的に同じ大きさ)”のモノについては、 ある程度の電流を流してしまうとインダクタンスが頭打ちというか、むしろ低下傾向になることが見えてきます。つまり、大きなインダクタンスを持っている製品でも、 ひとたび大電流を流した途端にインダクタンスが低下する…と。それはなぜか?
この図は、某インダクタ製品群のグラフを元に、電流とインダクタンスの関係を赤い点線で補記してみたものです。
この図の斜めの点線のように一定量の電流を流してしまうと、それ以降はインダクタンスが低下してしまう… それは、物理的にある一定量のスペースには一定量の磁束しか蓄えられないからっぽい。結果、実質的なインダクタンスが低下していく…と。 たとえば、元々100uHタイプのものを使っても、2Aほど流してしまうと実質10uH程度まで低下しちゃう。(まぁ、その前に発熱して壊れちゃうかもしれませんが)
インダクタはご存知のとおり「磁束」というカタチでエネルギーを内部に蓄えます。当然物理的に大きい方が磁束を蓄えるのに有利なのでしょう。 (コンデンサで言う「面積」に相当?)。
ある程度蓄えてしまうとそれ以上はもう蓄えられない(磁束が飽和)…つまりそれ以降は実質的な(磁束を蓄える)容量が低下…インダクタンスの低下…となるんだろうと。 そしてその容量は物理的な大きさに左右される。そう考えるとなんだかしっくり。大容量・大電圧のコンデンサが大きくなるのと一緒ですね。マンガにするとこんな感じ↓
この右の図のように、電流が増えても蓄えられる磁束は「ある一定量で頭打ち」になってしまうと。なんとなく「しっくり」来ました。
逆に言うと、図体が大きいのにインダクタンスが小さい製品は、「大電流に耐えるモノだ!」ということなんでしょうね。なるほど。
まぁ、アプリケーションノートに載っているインダクタンス及び重畳可能電流を元にして、それより大きいものを使っておけば間違えはなさそうです。
ただ、デカければデカいほどいいかというと、どうもデータからはそうではなさそうな様子も見えてきます。 2~3A程度のモノと5A程度のモノ、変換効率を比べるとなぜだか前者の方がちょっとだけ効率が良さそうです。ここら辺はまだ不明。いずれ。
(4)動作中の様子について
ご多聞に漏れず、コイルを使った変圧装置によくあるように、動作中コイルがチュィーーーーーーンとか、ピューーーーーーーーとか、 ポーーーーーーーーとか、プーーーーーーとか、キーーーーーン・ンチャ!とかよく鳴ります。鳴らないのもあります(可聴域外で聴こえてないだけの可能性もあり)。 負荷が大きくなると音も大きくなるみたい。
ちなみに、音の高さはインダクタによってマチマチで、発振している周波数がインダクタによって変わるようです。 タイミングコンデンサの容量で発振周波数を固定的に指示しているわけではないということのようです。容量がデカい方が音の周波数は低いみたい。
あと、アプリケーションによっては音が出ると困るって言う場合もあるかと思います。そこらも踏まえてインダクタを選択する必要がありそうです。
なお、動作中の出力電圧は非常に安定していました。
(5)リプルとスパイクについて
今回のテスト回路では、アプリケーションノートに従って出力側のコンデンサを取り付けはしました。1000uFを使用。 でも、リプルやスパイクを素のまま見てみたかったので、いわゆるパスコンの類は使っていません。
で、その状態でリプルやスパイクをオシロで眺めてみました。波形を画像にして眺めてみることにします。
ちなみに、あらゆるケースを試してみるのは無理なのとスペースの都合上、代表して「C1」のインダクタ(40uH、3Aタイプ)を取り上げます。 各出力結果をオシロでAC成分だけ抽出してみ結果が以下。
6Vの場合
9Vの場合
12Vの場合
15Vの場合
これらを横並びに見ると…
各グラフの縦軸がマチマチで少々見づらいんですが、出力を色々変化させてみた場合、リプルは幅0.3V程度で一定っぽく、 スパイクは電圧を上げるごとに少しずつ大きくなっていっているみたい。これは他のインダクタでも大体同じ傾向になっているようです。
一方周波数。出力が大きくなるにつれて発振周波数が高くなっていく様子が見て取れます。これも他のインダクタでも同様の傾向。
大出力になるにつれてインダクタからの放電が速くなり、結果、充電…放電…充電…放電…充電…放電…という繰り返しが早回りになって、 やがてそれが追いつかなくなると出力限界が訪れる…と。
ちなみにNJM2360のデータシートなどを眺めると、追いつかなくなったときには間髪発振となり、出力電圧が一気に低下することになるようです。 これは、容量の小さいインダクタを使って大出力に曝してみると良くわかるんですが、グラフは残してませんでした。すみません。
対策について
スパイク自体はパスコンを並列に入れることでかなり改善できると思いますが、リプルをどうしたらよいか…がちょっと厄介でしょう。
といっても、オイラごときではなんともしがたいのと、万能な対策などはないと思うので、 ココなどを参考にして個別の対応が必要になるんだと思います。
強いて一般論化するとしたら…デジタル回路用電源やモーター関係の給電であれば、データシート上必要な電圧範囲内にあることだけ考えればokでしょう。 極端な話、スパイクだけ対策しておけば何とでもなりそうです。
問題はやはりアナログ回路。あまり難しいことをするよりは…シリーズレギュレータを入れてしまうのが簡単なのではという気がします。
オイラの頭では、その程度が精一杯…。
(6)変換効率について
大容量のインダクタの方が効率が高いのかと思っていたんだけど、実際はそうでもなかったようです。 トロイダルタイプのでっかいインダクタは変換効率が70%を割っているのに対し、スペックぎりぎりのインダクタの方は70%を上回っているようです。
あまりオーバースペックなものを投入するより、計算どおりのスペックを元にしてブツを選んだ方が変換効率の点でもコストの点でもばっちりといった感じなのかもしれません。 まぁ、今回のデータだけではなんともいえませんが…
ちなみに、今回は2ワット程度をほぼフルスペックで取り出した場合に70%前後の変換効率が得られましたが、 この回路定数のままもっと小さい電力を取り出す場合には効率がもっと低くなると思われます。これはNJM2360がバイポーラのICであることから、 ベース電流がそれなりに大きくなることに起因するでしょう。
今回は内蔵のスイッチングトランジスタも外部に取り付けたスイッチングトランジスタも両方ともバイポーラです。 ベース電流はこれらトランジスタのhFEとコレクタ電流に依存します。大きなコレクタ電流を流すためにはベース電流もそこそこ流す必要があるので、 パワーMOSに比べて効率が悪くなるのは仕方ないでしょう。(この回路の場合、ベース電流は出力電力に寄与していません)
もしベース電圧を5V以上に保証できるなら、スイッチング素子にパワーMOSを使った方が効率は良さそうです。(パワーMOSのゲート電圧は5V以上のモノが多い)
その他
インダクタのスペックが足りていない場合、インダクタが発熱してにおいが出たりするケースがありました。やはり、スペック内でくみ上げるのが安全かと思います。
また発熱を起こさないまでも出力を徐々に絞り上げて行った際に、スペック以上の出力を取り出そうとしたある一線を越えたところで急激に出力が低下します。
これは、データシートにも記載されている間欠発振状態というものだと思います。
ということは、ぎりぎりのスペックで出力を得ようとすると、電源からの入力がちょっと変動しただけで急激に出力がバタバタする恐れもあるということだと思います。 ある程度の余裕をもって設計を行っておかないと、急に出力が変動して大慌て…ということになりそうです。
まとめ
今回は、タイミングコンデンサーや電流制限抵抗、ショットキバリアダイオード、スイッチングトランジスタについてバリエーションを充分に設けることができませんでしたが、 まぁそのあたりはあまり神経質にならずとも、”配線は大電流に耐えうるように太く短く!”ということだけ考えておけばそれなりの出力が得られることが判りました。
スイッチングトランジスタに2SC3709Yを用いれば、7ワット程度は比較的簡単に得られるようです。可変抵抗が10kΩ(B)よりも大きければ、もう少し取り出せたでしょう。
アタリマエですが、インダクタとスイッチングトランジスタにもっと大容量のモノを充てれば、さらに簡単に大出力が得られるんだろうと思います。
当初は2~3ワット程度搾り出せれば小型ステッピングモーターが回せると踏んでいたので、とりあえずその目標を達成してひとまず満足かなと。
モーター駆動用電源として考えていたため、ノイズ対策については全然実験ができませんでしたが、 よほどのHiFiオーディオでもやらない限り、シリーズレギュレータも組み合わせれば比較的安定した電源が得られそうだということは判りました。
一方で、(いまさらではありますが)ブレッドボードで大電流の実験を行うのは無謀だということがわかりました。 ブレッドボードのように簡単で、かつ大電流も流せるような実験環境があったら便利なのになぁ…と思いました。
最後に、「小さなステッピングモーターを駆動させる程度の電力という期待通りの結果が得られたと」例によって自画自賛しつつ、 また実験を通して少しだけインダクタに関する理解が深まったと解釈し、実験を終了としたいと思います。