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手始めに …オペアンプの動作概要…

まず、オペアンプの概要について簡単に整理しておきたいと思います。

外見について

オペアンプのパッケージ

色々なパッケージで発売されていますが、一番多いのは8ピンタイプのパッケージのようです。8ピンパッケージ の場合、オペアンプが1回路だけ入っているタイプと、2回路入っているタイプがあるようです。 その他にも、14ピンで4回路内蔵しているものや、PSoCのようにマイコン自体の内部に内蔵されているものもあるようです。 トランジスタや抵抗などディスクリートで組まれたオペアンプも存在します。

回路図では

これがオペアンプ1個分の回路を表した図です。

絵のように三角頭のイカ型です。イカの足は2本で、頭から1本の毛が生えてます。例えば8ピンのICなら、 このイカが1杯か2杯入っているというわけです。

左側の2本の足は入力端子。頭から生えている右側の1本は出力端子です。2本の入力端子は、片方が「反転入力」 (マイナスの記号が書いてある方)、もう片方が「非反転入力」(プラスの記号が書いてある方)と呼ばれます。

オペアンプのICによっては、それ以外にもオフセット調整用の端子が生えていることもあります(オフセットについては後ほど触れます)。 8ピンで2回路入っているものはオフセット調節が無く、1回路のものはオフセット調節が出来るようになっているようです。

電源部分については回路図上は省略されることが多いようです。ANDやOR、NANDなどと同じように回路図上では 個々の回路に切り分けて、それぞれ1個の記号で表記されます。

基本動作その1:負帰還をかけて増幅させる

オペアンプは、通常「負帰還」(ネガティブフィードバック)というものを掛けて使用します。まずはその負帰還について 紐解いていくことにします。

2つの入力端子:差動入力について

オペアンプには、反転入力端子と非反転入力端子という2つの入力端子があります。このような、正負一対の 入力端子を「差動入力」と呼びます。(USBの端子にも使われていますよね)

この図のように、非反転入力から反転入力を引いた電圧を入力として評価するのが差動入力の働きです。

USBのように長い経路でデータ転送を行う場合には、送信したい情報(電圧)について、非反転入力側には正電圧のまま、 反転入力には負電圧をさせてから送ることになっています。贅沢に2本の線を使って1つの情報だけを送っているわけです。

伝送経路上でノイズが進入した際は2つの線両方にほぼ同じ量のノイズが乗ると考えられるので、引き算すれば打ち消されて、 あたかもノイズは無かったことになります。つまりUSB等の場合は、伝送経路の信頼性を高めるために使われているわけです。

オペアンプの場合の差動入力

まず例を挙げてみます。例えば単に2つの入力端子にそれぞれ適当な信号をインプットした場合、オペアンプは2つの端子間の「電圧差」に 「無限大の増幅率」を掛け算して出力します。(無限大の増幅率…それが理想的なオペアンプに求められる条件の1つに挙げられています。 理想的なオペアンプについては後述)

無限大とは言っても、実際には正負両方の電源電圧という限界があるので…

ことになりますが。(つまりコンパレータと同じ動作をします。厳密には、rail-to-railのオペアンプでなければ、 出力電圧の幅はプラスマイナスの各最大電圧よりも少し狭い範囲となります。)

例えば上記の図では、非反転入力から反転入力の電圧を引くと「1V=プラスの値」になるので、”正電源と同値”の電圧が 出力されることになります。

このまま使うと、出力電圧はプラスかマイナスの各最大値のどちらか一方という2値しか取らないので、コンパレータにしか使えず、 これでは正直役に立ちません。なので、通常オペアンプには抵抗を介して「負帰還」というものを掛けて使われます。この負帰還をかける ことにより、入力電圧に任意の演算をして出力することが出来るようになります。(これはつまりアナログ値の演算にあたります)

というわけで、オペアンプは「アンプ」という名前が指すとおり入力信号を増幅するわけですが、差動入力という観点では 上記のUSBの場合とは使い道がちょっと違います。2つの端子の「電圧差」に重要な意味があることは一緒なのですが、 「負帰還は反転入力側に掛ける」という点一つを取っても、両端子は同等あつかいではありません。詳しいことは後々…。

さて、この負帰還について、もう少し突っ込んでいきましょう。

負帰還(ネガティブフィードバック)とは

「帰還」とは、この図のように出力内容を入力に影響させて使うことです。一般には正帰還と負帰還の2つの使い方が用いられます。

オペアンプにおける負帰還というのは、出力端子からの出力を抵抗を介して「反転入力端子」側に繋ぐことです。出力端子の出力が 大きくなれば逆に入力端子にマイナスに働き、逆に出力端子の出力が小さくなれば入力端子にはプラスに働き、丁度いいところで つりあいが取れるのが負帰還です。 (抵抗を介さない場合もあります→ボルテージフォロア:後述)

負帰還の結果、 出力電圧が「ある値」に達するとバランスが取れて安定するようになります。オペアンプの場合、 任意の出力電圧でバランスが安定することになるので、増幅率を任意の値に設定して使うことが出来るようになります。

負帰還が具体的にどんな風に働くのか、そしてある値とはどこなのかについては、下項「イマジナリショート」 のところで紐解いていきます。

とりあえず簡単な例:反転増幅と非反転増幅について

オペアンプの一番簡単な応用回路の例として、ひとまず「反転増幅」や「非反転増幅」の場合を取り上げてみます。 反転増幅や非反転増幅というのは、入力側から入力した電圧を、任意の倍率(固定倍)で増幅するという増幅回路です。

下の2つの絵で言うと、R1、R2の2つの抵抗の大きさを「てこの棒の長さ」に見立てて、2つの抵抗にかかる 電圧の比を用いて「てこの原理」で増幅を行うものです。

どちらにも共通して言えるのは、水色の所を支点にして入力電圧をてこの原理で増幅する回路ということです。このように、負帰還をかける ということで、外付け抵抗2個というとても簡単な回路で任意の倍率の増幅が行えることが直感的にご理解いただけるのでは?と思うのですが…。

(なぜこの回路でこういう動作になるのかは、次項のイマジナリショートの話でもう少し詳説します)

基本動作その2:イマジナリショートについて

オペアンプの基本機能としてもう一つ大事なことは「イマジナリショート」という概念です。

イマジナリショートとは

オペアンプは通常「反転入力」端子に負帰還を掛けて使います。

負帰還を掛けて使うと、出力端子の電圧が反転入力・非反転入力の各端子の電圧をイコールとするところで落ち着きます。 差動入力の2端子の電圧がイコールになるとその差がゼロとなってしまうので、出力電圧を上にも下にも動かす力が 効かなくなるわけです。

するとその電圧で出力電圧は安定することになります。

結果、2つの入力端子があたかも「短絡」しているかのように「同電位」となるので、これをイマジナリショート(仮想短絡)と呼びます。 (内部回路を紐解くと、実際にはショートしていません。差動入力に負帰還をかけると生じる、一つの現象です)

イマジナリショートは、オペアンプを負帰還を使うときに生じる現象です。

例を挙げて解説してみます

図を例にとって説明します。この図は反転増幅をモデルにしたシーソーの例です。

まず初期状態は、点線のところ(水平上)にシーソーがあると思ってください。そして、反転増幅なので、 非反転入力端子は常に0Vに固定されています。

反転入力端子(図のシーソーの左端)に対して、当初0Vの状態からちょっぴりマイナスの電圧に変化させることを考えてみましょう。 (図の左側の赤い矢印の入力です)

するとシーソーは黒い棒の位置に移動しようとするので、支点…つまり水色の三角(非反転入力端子の電圧=0V)よりも 黒い棒の方(反転入力の電圧)が低くなってしまいます。

それはつまり、

「非反転入力の電圧>反転入力の電圧」

になろうとすることなので、”負帰還”が働いてオペアンプは出力電圧を一気に増加させます。

負帰還によって出力電圧が青い棒のところまで上昇すると、反転入力端子の電圧も引き摺られて0V(三角形の頂点)まで上昇します。 この位置になると、非反転入力と反転入力の電圧が等しくなり(差がなくなる)負帰還が止まるので、出力端子は上昇をやめて落ち着きます。

この結果、出力電圧はR1、R2の比で増幅した電圧値のところ(青い棒の位置)で出力を安定することになります。

このようにマンガにしてみると、「負帰還」と「イマジナリショート」の働きがイメージ的に理解いただけるのではないかと思います。

「負帰還」と「イマジナリショート」、そしてオームの法則がわかっていれば、反転増幅や非反転増幅だけでなく、大抵のオペアンプ関係の回路 は理解できるようになると思いますし、自分で設計することも出来るはずです。

(余談ですが、反転増幅の場合は2つの端子両方がグランド電位となるので、イマジナリグランドとも呼ばれます)

イマジナリショートと増幅率の関係について

「負帰還」と「イマジナリショート」という仕組みがあるので、反転入力端子が0V固定の「支点」として働き、 シーソーが働くことはお解りいただけたかと思います。

さて、2つの抵抗の値が何故”てこの長さ”になるのでしょうか?その理由は…

という2つの特性(詳しくは次項:理想的なオペアンプご参照)があるからです。すると、R1とR2の抵抗比はそれぞれの抵抗に かかる電圧の比と等しくなるんです。上の図を見ながらイメージしてみてください。

各抵抗にかかる電圧はオームの法則により「抵抗×電流」ですが、2つの抵抗に流れる電流が同じですから、2つの電圧は 抵抗値にそのまま比例することになります。比例するっていうことは、つまり”てこの原理”そのものというわけです。

このため「各抵抗の値」がそのまま「てこの長さ」と考えることが出来ます。

てこの原理ですから、R1を短く、R2を長く(R1の抵抗値を小さく、R2の抵抗値を大きく)すれば、小さな入力に対して 大きな出力が取り出せます。これを念頭におけば、抵抗値の単純な比例計算で増幅率が設定出来ることがお判りいただけるでしょう。

非反転増幅の場合についても、前項のマンガをもう一度読み返して頂けばその働きがなんとなくお判りいただけると思います。 もちろん支点(グランド)の位置が左端にあるので動作は微妙に変わります。でも2つの端子(非反転入力端子と反転入力端子)の 電圧がイコールになるように出力電圧が調整されるという観点では一緒です。これもイマジナリショートが働いている結果です。

両者ではこの入力と出力の方向が逆に働くのはすぐお判りかと思います。入力と同じ方向にてこが動くのは非反転増幅、 反対に動くのが反転増幅というわけです。あと、支点の位置もちょっと違うので計算式に影響してきます。(あとで詳説します)

反転増幅や非反転増幅を計算式どおりに使うのであれば、イマジナリショートなど知らなくても問題ないのですが、 もっと複雑な計算をさせるときの抵抗計算には不可欠な概念になってきます。

理想的なオペアンプとは

オペアンプの理想条件

上でも少し触れましたが、オペアンプの理想像というものがあります。以下のような条件を満たすものです。

真空管時代には交流の増幅しか出来なかったらしいのですが、オペアンプでは直流の増幅も可能に なっています。

また、入力インピーダンスが無限大で出力インピーダンスがゼロなら、入力側と出力側の影響を断ち切って考える ことができ、実用上いろいろ便利なことになります。

それに、極々微小な信号でもべらぼうな増幅率(R1、R2の抵抗の比を物凄く大きくする)を掛けて大きな電圧にして扱うことも 理論上可能なはずです。

ところが、実際は各種の物理的制約によって、理想オペアンプに少し満たないところがあるのが現実です。

オペアンプの理想と現実

例えば出力電圧。電源電圧(正電源、負電源)によって上限下限は決まってしまいますし、正負電源よりも 狭い範囲の電圧しか扱えません。

増幅率についても、増幅回路内部にトランジスタなどを使って増幅を行うため無限大とはならず、現実的には 有限の”大きな値”です。(実用上問題はありませんが)

また、入出力のインピーダンスも無限大やゼロにすることは不可能です。オフセットも生じるし、 温度変化によってドリフトも生じます。内部からノイズも発生します。そのため、巨大なてこを使って増幅を行うと、 オフセットやドリフト、ノイズといった変動要素まで増幅を掛けてしまうので、でたらめな出力結果が 生じる恐れもあります。

ある程度以上の周波数になると入力信号と負帰還であるはずの信号の位相が180度ずれてしまい、正帰還に転じて 異常発振をおこしたりもします。

それに、あまり速い入力変動に対しては出力電圧の変動が追いついていけません。ビデオ信号を扱えるオペアンプと 扱えないオペアンプがあるのもこのせいです。(オペアンプの速度はSR=スルーレートという指標で示されます)

出力インピーダンスも実際はゼロにはなりません。オペアンプの出力段にいきなりスピーカーを繋いでしまっても 音を出せるほどの電流は取り出せません。音声信号を取り扱う場合には、特にノイズや歪みの多さなども問題視されます。

などなど、現実的には色々な制約が生じますが、ひとまず忘れておいて、まずは理想的なオペアンプを元にして 設計・計算を行うことを目指すことにします。

未説明用語もいっぱい出てきたので「なんのこっちゃ?」という状態かと思いますが、後々もうすこし解説していきたいと思いますので、 読み進めてからまたこのページを読み直していただければ…と思います。

ま、理想と現実はどここの世界にもあるんだなぁという程度に捉えて置いてください。理論的には可能でも、 設計の段階では現実の壁が立ちはだかって、設計にも影響することが時々あるよ、ということです。

オペアンプの動作概要まとめ

以上、オペアンプの基本動作として「単体では無限大の増幅率を持っている」「負帰還をかけて出力電圧を任意に制御する」 「負帰還ではイマジナリショートが現れる」という性質があるということ、これら3点について簡単に触れました。

反転増幅、非反転増幅以外にもオペアンプには色々な用途があります。各入力端子にもっと沢山の入力を繋いだり (複数の入力電圧を加減算して出力する…加減算回路など)、さらにはフィルター回路とか非線形回路とかいろいろな応用が あるんですが、それらの殆どすべては「負帰還」と「イマジナリショート」の概念を理解しておけば理解可能かと思います。 なんとなーくでいいのでイメージ的に理解しておいてください。

引き続き、もう一歩に続きます。(クリックして進んでください)