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天体観測と写真のお話

はじめに

私はカメラが好きで、よくネコや季節の草花、街並み、ネコ、ライトアップされた建造物、夕日、ネコなどを撮りに出かけたりしています。 カメラを始めるようになってからは時々夜空の星や星雲も眺めたり撮ったりするようにもなりました。

最初は小学生時代に習った星座を探したり撮ったりといった感じで「なーんとなく」だったんですが、 自分で撮った星の写真を眺めているうち、「こんなしょぼい写真を撮るのはなぁ…もっと奇麗に撮りたい、もっと鮮やかに撮りたい」と思うように。 …そう。アースシェイカーのmore を聴いて育った世代なら当然の成り行きなのだ!

というわけで、「お星様をもっと鮮やかに撮る」ということを念頭に、お星様が東から昇って西に沈む動きとその周辺を紐解いてみたいと思います。

なお、星や星雲を撮ると言っても大きくは2通りの撮り方があります。

一つは「固定撮影」、もう一つは赤道儀を使った「追尾撮影(ガイド撮影)」です。

固定撮影と追尾撮影について

固定撮影

固定撮影というのは、三脚にカメラを取り付けてシャッターを「バルブ」モード(長時間撮影モード)にし、 数十秒~数十分という長時間で撮影する方法です。

星の光は肉眼で見るよりも弱く淡いので、カメラを普通に夜空に向けて短時間でシャッターを切っても見た目どおりの明るさには写らないし、 だからと言って手持ちで長時間シャッターを切ると手ブレしてしまいます。そのため星の撮影には一般に三脚が必須です。

そのように三脚を使って長時間撮影を行うと、シャッターを開けている時間に比例してたくさんの光を取り込むことができるので、 淡い星の光まで写す事が出来ます。

一方地球は約1日に1回自転をしているので、長時間シャッターを開けて撮影をしている間にも星は(見かけ上)東から昇って西に沈むように動きます。 休むことなく動いてます。そのため、写真に撮ると北極星付近を中心にして星が弧を描くようなカタチとなって写ります。こんな風に…

これは「さそり座」付近をISO200で約4分間掛けて撮影したモノです。このようにたくさんの星や天の川の淡い光まで写す事ができることになります。 が、たった4分間とはいえ星は随分動くものだなぁとおわかり頂けるかと。計算上、およそ1時間あたり15°回転する計算ですからね。

追尾撮影(ガイド撮影)

星の淡い光を写すためには長時間の露光がどうしても必要になるのですが、かといって長時間かけてしまうと星は弧を描いてしまう…

長時間露光でたくさんの光を取り込みつつ弧を描かずに写すためには、地球の自転を無かったことにしてしまえばいいことになります。

一番シンプルなのは、「地球の自転をピタッと止めちゃえばいい」んですが、それはオイラの資金力と腕力では少々難しいので 「赤道儀」という道具を使うことにします。赤道儀は地球の自転をあたかも無かった様にしてくれる機械です。 赤道儀を使えばこんな風にピタッと止まった写真が撮れます。

この写真も「さそり座」付近をほぼ同じ条件(4分間)で撮影したモノです。 赤道儀を使えば星がちゃんと「点」として写っており、天の川も境界線がくっきりとしているのがお判りいただけるかと。

その「赤道儀」と周辺領域についてもうすこし整理していきます。

星は24時間で空を1周するの?

一日(いちにち)って…どのくらいの長さ?

問:1日は何時間でしょうか?

答:24時間ですね。正確にいうと24時間0分0秒です。この程度のことなら誰でも知ってるって怒らないで下さい。

さて、次の問:太陽が南中してから次に南中するまで何時間でしょうか?

答:やっぱり24時間ですね。正確に言うと24時間0分0秒です。

もともと太陽が南中してから次に南中するまでのあいだを1日、すなわち24時間と定義されたんだから同じ24時間となるのはあたりまえ。 (ちなみに現在時間の長さはセシウムの吸収スペクトルを元に定義されてます)

最後の問:夜空のお星様が南中してから次に南中するまで何時間でしょうか?

答:約24時間です。え?じゃぁキッチリ24時間じゃないの???ないんです。次項、そのお話。

星の一日

お星様が夜空を1周するのが24時間じゃぁないんだとしたら、一体何時間なのでしょうか?

それを考えるために、視点を宇宙空間に移してみましょう。

これは、太陽と地球を宇宙から見てみた図です。もう少し言うと、地球の北極方向の延長の方から見た図です。

最初地球は一番下の所にあると思ってください。そこから右上の方にクルクル回転しながら移動していくという図です。 いわゆる「自転」と「公転」ですね。黄色い扇形の分だけ移動した時が地球上の1日に相当します。

地球はグルッと1回自転することで朝と夜ができて、一日が生まれるわけです。

まずは一番下にある地球を見てください。図の上の方向=真南の頭上方向に太陽があります。太陽が南中している訳ですね。 そこからクルクルッと自転しながら同時に「公転」もしていきます。丁度1回転自転した時(図の黄緑色の扇形の分)には当然「図の上方向」 を向いてますが、公転によって場所がズレてしまっているためまだ太陽の方向を向いてません。

もう一度太陽の方を向く(黄色の扇形…つまり地球上の1日)までには1回転+αの時間が必要になります。 この黄色の扇形が地球上の24時間0分0秒というわけ。

さて、宇宙空間レベルで考えると「太陽」は地球から見て比較的近くにある天体です。このため、地球が公転で1日に移動する距離が 「角度に影響」するほどの距離とも言えるんですが、逆にいうと他の星々は太陽に比べてもんのすごく遠くにあるので、 ちょっとくらい位置がズレても角度的には殆ど影響ありません。

…厳密に言えば変わるはずなんですが、太陽の次に近い恒星=アルファケンタウリのプロキシマでも4.22光年も離れているので、 光速で8分19秒の距離にある太陽と比較すればその角度変化は誤差の範囲と言えます。(近い恒星でもざっと2~30万倍)

ということを踏まえて整理します。

太陽とは違い夜空の星は太陽に比べてもんのすごい遠くにあるので、 見かけ上黄緑の扇形の分だけ回転したらまた元の位置に星が戻ってくることになります。

さて質問。純粋に地球がグルッと1回転するのに要する時間(=黄緑の扇形に要する時間)は一体何時間でしょうか?

答:23時間56分4秒です。厳密に言うともう少し細かい数値になるかと思いますが、まぁこの程度まで計算しておけばokでしょう。 この約4分っていう数値…どこから出てくるんでしょうか?次項、その計算をやってみます。

23時間56分4秒って…???

カレンダーを思い出してください。1年間は何日でしょうか? 365日でしょうか? うるう年は?

1年…つまり地球が太陽の周りを1回転するのにかかる時間はおよそ365.25日です。これは4年に1回うるう年があるからですね。 4年で1日のうるう日があるので、その1/4を356に足した数値=365.25日です。

もっとに言うと100年に一度、400年に一度といったうるう年補正があるので、0.25よりも少し短い数値になりますが、 そこまで厳格にしなくてもとりあえず星野撮影程度なら全然問題無いので気にしないこととし、1年は365.25日として扱うことにします。

さて、自転1回転(=360°、つまり黄緑の扇形)は何秒かかるんでしょうか?地球の自転の向きと公転の向きがいっしょなので、 1年=365.25日に1回転分多く自転しないといけませから…

365.25回転 ÷ (365.25+1回転) × (24時間×60分×60秒) ≒ 86,164秒

一日の長さは24×60×60 = 86,400秒 なので、差を求めると約236秒 → 3分56秒となります。はい、出ました。

24時間から3分56秒を引けば、23時間56分4秒となりますね。これを 恒星日といいます。

赤道儀と恒星日

赤道儀は星を追いかける道具です。

とすると、地球が恒星日(=23時間56分4秒)で西から東に向かって自転しているなら、 その逆に東から西に向かって恒星日(=23時間56分4秒)に1回転のペースで回転させれば星の動きが無かったことにできることになります。

つまり赤道儀は恒星日基準の速度で地球の自転と逆回転するモノって言うことになります。この赤道儀にカメラとか望遠鏡とかを置けば、 見かけ上は星を正確に追いかけてくれることになるわけです。

こんな風に、地球の自転軸と赤道儀の回転軸が並行になるように設置しておいて、地球の自転と反対向きに赤道儀を回転させれば、 地球の自転をキャンセルしたことと同じになります。ちなみに図中のお星様は「北極星」です。 北極星は物凄く遠くにあるので、赤道儀の回転軸を北極星の方角に向けておけば、地球の自転軸と赤道儀の回転軸が並行になります。

厳密に言うと大気による屈折などモロモロの条件によって多少の誤差が生じるんですが、星野撮影程度なら気にするほどのことはありません。

まとめると、赤道儀は丁度23時間56分4秒で東から西に向かって1回転する機械ということですね。

赤道儀と経緯台

赤道儀の使い方

一般的な赤道儀は、おおよそこんな形をしています。例えば望遠鏡を載せた場合の図。水色のところが望遠鏡の鏡筒で、 クリーム色と薄緑色のところが赤道儀。赤道儀を三脚に載せて、その赤道儀に望遠鏡を載せて使います。

クリーム色の右下部分にある変なモノはバラストと言って、緑色の軸をやじろべえの支点と考えた時に望遠鏡とバラストが丁度釣り合う… それによって回転しても重量バランスがあっちこっちにズレないという働きをしているものです。

同様に、カメラを載せた場合の図。望遠鏡の代わりに自由雲台(図の黒い部分)とカメラを登載しています。

この図のように、薄緑色のところを中心にクリーム色の部分がグルッと回るようになっています。 薄緑の軸の延長上に北極星(正確言うと天の北極)が存在するように設置して、 恒星日=23時間56分4秒で1回転のペースで矢印の向きに回転することで夜空の星を追尾することが出来るというわけです。 例えて言えば、図のクリーム色の部分は宇宙空間に浮かんだ「回転していない物体」ということが出来そうです。(かえって解り難い?)

写真を撮る場合はカメラを好きな方向に向けられるように、一般的には自由雲台を使ってカメラを載せることになります。

赤道儀以外の架台…経緯台

望遠鏡を載せる架台というと赤道儀以外にもあって、最もお馴染みなのは経緯台というモノです。こんな感じのもの。

普通のカメラ三脚と同じように、水平方向に回転させて方角を決め、上下方向の回転で高さを決めるような架台です。

構造的にはこっちの方がシンプルで扱いも直感的でとても楽なんですが、 星を追尾する時には水平方向+上下方向の両方を同時に動かさないといけないので、操作が煩雑になってしまいます。

比較的低倍率で直接望遠鏡を覗いて星を見る時には用いられますが、カメラで星を撮ったり、高倍率で星を追いかけながら見る時などは少々不便です。

まぁ、コンピュータ制御にしてしまえばリアルタイムで水平方向・上下方向を同時に制御することも不可能ではないので、 実際この形式の架台でも赤道儀と同様に使える…長時間露出で写真が撮れるような架台+制御コンピュータのセットも売られています。

ちなみに赤道儀や経緯台のように望遠鏡を載せてあっちに向けたりこっちに向けたりできる部分のことを「架台」といいます。 一般的な天体望遠鏡をしたから呼ぶと、「三脚」「架台」「鏡筒」となっています。

赤道儀の要件とその周辺

当サイトは一応マイコンと工作関係のサイトのつもりなので、「どんな機能が組み込まれていれば赤道儀と呼べるのか」という 「要件」をマイコンと絡めてくくりだしておきたいとおもいます。赤道儀を自作する時に組み込む要件を明確にするということと、 市販の赤道儀の良し悪しを判断する目安には多少お役に立てるでしょう。

要件1:追尾速度とその動力源

赤道儀は地球の自転を無かったことにする働きをしないといけないので、地球の自転速度と同じ速度で反対方向に回転させることが必要です。

地球の自転は、1回転辺り丁度1恒星日(=23時56分4秒)の角速度です。この速度で回転する構造物・メカを作ればいいわけです。

その動力として用いられるものには一般的には「ステッピングモーター」「DCモーター」「手動」といったあたりです。

手動でできるの???と思う方もいるでしょう。実は市販の赤道儀、モーターは後付けオプションとなっており、 モーターを買わない場合は手動で動かすことになります。例えば望遠鏡を載せて星を眺める場合は、 その星が視野からはみ出ないように手で速度を調節しながら赤道儀を回転させて眺めることになります。この場合は当然動力源が「手動」です。 もちろん追尾精度は高くありませんが。

また面白いところでは、自作が容易な簡易的赤道儀として知られている「タンジェントスクリュー式」では、 時計を眺めながら1分間あたりネジを1回転のペースで手で回すとほぼ正確に星を追尾できると言ったモノなどもあり、 手動でも広角レンズ程度ならある程度写真撮影も可能です。

一般には動力源に電動のモーターを使いますが、最も一般的なのは回転角をデジタル信号で正確に、 しかも簡単な仕組みで制御できるステッピングモーターでしょう。マイコンでパルスを生成し、 それによってステッピングモーターの回転角を正確に操るという形態です。

一方DCモーターはステッピングモーターに比べてトルク・パワーが大きいので、 星から星へ次々移動しながら眺める時に桁違いに移動が速いのがメリットです。 しかし、正確に星を追尾するとなるとフィードバック制御が結構厄介になり、ステッピングモーターほどの精度を得るのが難しいといわれています。

纏めると、何らかの動力…一般には電気モーターを用いて、 1恒星日あたり正確に1回転の角速度で地球の自転と逆方向に回ればよいといった感じになるかと思います。

要件2:動作精度

星を追尾し撮影するとなると、長時間に渡って正確に星を追尾することはもちろん、短い時間の間にも同様に正確に追尾する必要があります。

短い時間の間というのは、例えばステッピングモーターならコチコチと時計の秒針のように追尾することになるので、 その止まっている瞬間に星が日周運動でずれてしまうとか、DCモーターならフィードバック制御が雑だとあっちに行ったり戻ったり… そんなフラフラした追尾をすれば、いくら平均速度が正確に恒星時に合っていても短時間に生じる誤差によって星が「点」として写ってくれません。

ステッピングモーターは正確に制御できるのがメリットですが、この観点では「コチコチする」ことが問題になります。大きくは2つの問題を生じさせます。

一つはコチコチと動いたり止まったりすることによって生じる物理的な振動。カメラ、赤道儀、三脚も振動させてしまい、 星が一つの点に収束してくれません。もう一つは動いたり止まったりすることにより、止まっている瞬間に星が日周運動で弧の軌跡を描いてしまうもの。 最近の高画素数のデジカメ+高倍率望遠鏡では止まっている間に1画素分くらいの日周運動で動いてしまう…みたいな、 そんな影響を考えておかなければならないかと思います。

これを弱めるためにはマイクロステップ という方法を使うのが一般的です。

一方DCモーター。このモーターは電圧や負荷によってアナログ的に角速度が変化してしまうので、 角速度を正確に制御するにはフィードバック系の制御が必要になります。

フィードバック制御がキッチリ行えれば星を短時間の観点でも長時間の観点でも正確に追尾できることになるのですが、 DCモーターを登載した市販の赤道儀ではやはりこの「短時間の追尾誤差(フィードバック制御の誤差)」が泣き所になっているものが散見されるようです。

いずれにしても撮影に用いるのであれば、光学系も考慮の上追尾誤差(角度)がカメラの1画素が星野に占める画角に比較して、 問題にならない程度に小さければよいということになるかと思います。

手動は…精度を問うてはかわいそうと言うものです。

要件3:視野の移動

星を追いかけて眺めたり、撮影したりするとなると、星から星へ次々視野を移って行くことになるでしょう。 そのためには星から星へ視野を移動していく「なんらかの機能」が必要になります。

普通に望遠鏡を赤道儀に載せて星を眺めているなら、一旦ロックを解除してグルリンチョと一気に回転、 目的の方向を向いたらまたロックしなおして再度追尾…ってすればいいし、経緯台なら水平方向へ調整ツマミをグリグリ、 高さをグリグリして一気に目的の方向に向ければOKでしょう。

なお、市販の赤道儀(もしくは経緯台)には自動導入機能というのがついているモノがあります(後付け部品で対応できるタイプもあります)。 この機能は何かというと、コンピューターの画面上で星や星雲を選ぶとその星に向けて自動的に向きを変えてくれるというモノです。

この機能は特に「薄暗くて自分の目では見つけ難い天体」を望遠鏡の視野に導入する際にとても役立ちます。 手動ではなく自動なので、赤道儀にしても経緯台にしてもコンピューター制御なので当然電動のモーターで駆動することになりますが、 モーターの駆動方法によってそのスペックに差が現れます。

ステッピングモーターでドライブしている架台(赤道儀や経緯台)は消費電力の割にはチカラが弱いので、別の星に視点を移動しようとすると、 じわーーーーーーーとゆっくり移動しなければなりません。

DCモーターはパワー・トルクにモノを言わせてグリングリンとアッと言う間に星から星に移動することができまが、 追尾の精度…特に微少時間における追尾精度…がステッピングモーターに比べると低くなりがちです。

速度と精度。利便性と性能は両立しないという一つの例かもしれません。

一方、視野の移動という観点では赤道儀と経緯台を比較した際に特徴的なことが現れます。操作のしやすさ、しにくさです。 これは各方式における回転軸がどのようになっているかに因るものです。

経緯台は水平方向+垂直方向というとても解り易い駆動方法なので、人間の感覚からとらえるととても理解しやすい制御ができます。 東西南北(=方角)と高度というパラメータで制御可能です。一方、赤道儀は地球の自転軸と並行な軸と、 それに垂直になっている軸の2つの軸による座標系 ( 赤経、赤緯というパラメタで表します)で位置決めをするので、 人間のアタマでは少々扱いが面倒です。まぁ、慣れれば何とかなりますが。

というわけで、赤道儀+望遠鏡で星から星に移動するのは経緯台にくらべて元々構造的・操作面で困難があるため、 コンピュータによる自動導入が比較的重宝されます。元々操作が困難なことに加え、望遠鏡の狭い視野で暗い星・星雲を探すのは困難だからです。

さて、赤道儀に望遠鏡ではなくカメラを載せて写真を撮るといえば、普通は自由雲台を用いることになるでしょう。 自由雲台は英語では「ball head」と呼び、その名の通り上部が金属製の球状になっています。 この球の部分を挟んだり緩めたりすることでカメラの向きを好きなように変えたり留めたりできます。 普通の雲台に比べると星野撮影では向きの調整が簡単に済むので何かと便利なモノです。

カメラを自由雲台に載せて星野撮影をする場合なら視野角が比較的広いので、それほど厳密に方向を定める必要はありません。 そのため自動導入を使う意義というのは大きくは無いでしょう。

自由雲台は扱いやすさや軽さ、強度などによって値段もピンキリですが、お財布とご相談のうえ選んでください。 あまりヘナヘナな安物を使うと、強度不足となり望遠レンズでの撮影ではまともに写ることはないでしょう。

私が使っていてお勧めなのはSLIKのSBH-320 です。必要充分な強度、そこそこの軽さ、そしてなにより使いやすい操作系。1個あれば星を撮る以外にも色々使いまわしが効く道具ですし…

自由雲台の操作系は結構重要で、旧来の自由雲台はボールヘッド部分を緩めたり絞めたりするのにレバー操作が必要だったんですが、 SLIKのSBH-320はダイヤル式なので、暗がりで写真を撮っている時にも操作で迷いません。 また、操作の際にダイヤルを回す角度も比較的小さくて済むので、微調整も結構楽です。

まぁ、広角の星野撮影程度ならもう少し小型の自由雲台でも事足りるんですが、 1個だけ買って使いまわすなら最初から強度が高い物を手に入れて使いまわしたほうが安上がり、と。

自由雲台+カメラなら、赤道儀は動かしっぱなしのまま、自由雲台だけの操作で好きな方向にカメラを向けられるので、 厄介な赤道儀の操作を意識することなく星から星へと視点を移動することが可能になります。

以上、主に赤道儀を使った視野の移動について触れてきましたが、腕に覚えのある人はあえて経緯台による制御に挑戦して、 水平方向、垂直方向の2軸制御で追尾・自動導入する仕組みを自作するのも楽しいかもしれません。

要件4:強度・剛性

動作原理が意外に簡単な割に市販の赤道儀が高いのは、この強度に因るところが大きいです。

本来理論上の追尾精度はステッピングモーターを駆動するコンピュータのクロック原…クリスタルの精度に因るはずですが、 クリスタルの精度自体はどの赤道儀でも大差無く、構造的な強度不足によるタワみ等が原因となります。

一般に、望遠鏡に10万円をつぎ込むなら赤道儀にも10万円、望遠鏡に30万円かけるなら赤道儀に30万円とか言われているようです。 ビンボーなオイラにはとても捻出できる金額では有りません。(大昔のステッピングモーター式の赤道儀を中古で買うのがやっとでした)

赤道儀にとって強度、剛性はどこらへんが重要なのかを整理してみます。

まずは回転軸周り。地球の自転軸と正確に並行な軸で回転することが必要なので、回転軸がグラグラしたりしてたらお話になりません。

一般に回転軸といえばボールベアリングを使った軸を使うことになるかと思います。内部のボールベアリングの加工精度も大事ですが、 ケーシングと中のボールの隙間が「ガタつき」を生じさせる原因にもなります。 ガタがあると1本の軸で周るのではなく円錐状に回転することになるため、正確に星を追尾することが出来なくなります。 あまり詳しくは有りませんが、高価な赤道儀ではこのガタを取り除くために高強度の素材を使ったり高精度な加工を施したりして、 たぶん高価なベアリングを奢る必要があるんだろうと思います。

ベアリング以外にも、筐体自体の剛性も影響します。

望遠鏡は想像どおり結構な重量ですし、カメラでも口径の大きいレンズを付けると結構な重量になります。

そんな重量物を赤道儀に載せると、多かれ少なかれ赤道儀が重量でたわみます。このたわみが追尾精度を悪化させるので、 高価な赤道儀は強度を上げるために色々施されているというわけです。

望遠鏡レベルで高精度に追尾するには高剛性の赤道儀が必要になりますが、星野撮影程度なら多少剛性が低くても大きな影響は出ない、 という感じでしょうか。

もう一つ付け加えると、三脚の剛性や重量バランスなども重要なんですが、長くなるのでひとまず端折ります。

まぁ、赤道儀本体としては回転軸の精度と筐体の剛性が大事ってことになるかと思います。

要件5:マウント部分

赤道儀というと、主に回転軸部分だけのことを指します。さっきの図でいうところのクリーム色部分と薄緑色部分を合わせた範囲です。

言い換えれば三脚は赤道儀に含みませんし、望遠鏡の鏡筒も赤道儀には含みません。 厳密にはモーターも赤道儀には含まれないことになりますが、赤道儀用のモーターや制御回路は他のことに流用できる代物ではないので、 個人的にはモーターや制御回路も赤道儀に含めることにしたいと思います。

さて、実際に星野撮影をする際には当然三脚が必要になりますし、望遠鏡やカメラ・自由雲台を載せるマウントも必要になります。 そのため赤道儀にはこれらを取り付けるマウント部分を設ける必要があります。

望遠鏡を取り付けるマウント部分には、ビクセンが世に打ち出して望遠鏡業界標準(?)となったアリミゾ式というのがあって、 最近の市販赤道儀や望遠鏡ではこのアリミゾが採用されています。 この結果、望遠鏡の鏡筒と赤道儀は別のメーカー品を購入しても組み合わせることが可能で便利になっています。

自作する時もこの形状のマウントを登載するのが一番よいのでしょうが、アリミゾを自前で加工するとなると大変になっちゃうのと、 星野撮影(カメラ+自由雲台という範囲)ではアリミゾは不要なので、星野撮影に必要な範囲内で検討することにします。

星野撮影ですから、赤道儀に接続するのはカメラ用三脚とカメラ用の自由雲台ということになります。

日本で売られているカメラ機材であれば、マウント部…言い換えれば「ネジ穴」の部分はW1/4規格というネジを用いることになっています。 これはいわゆるインチネジの規格で、1/4インチサイズというモノです。

ネジはホームセンターに行けば1個数十円で手に入ります。赤道儀に自由雲台を取り付けるためには、 赤道儀側に適当な大きさの穴を設けておけば、この穴を通して自由雲台をネジ止めできます。

これはその数十円のネジと、自作のポタ赤と組み合わせて使っている3000円くらいの安い自由雲台。 このようにマウント部はミリネジではなくインチネジになっていて、ネジ溝のピッチが普通のミリネジとは異なります。ご注意を。

問題はカメラ三脚に取り付けるほうの穴。こっちはちょっと厄介。ネジならホームセンターで売ってますが、 「ネジ穴」なんて品物は売ってないですからね。

ネジ穴役に使えるものとしてはおおよそ2つの案があります。一つは「ナット」で留める方法。もう一つは「タップで雌ネジを切る」方法。 しかし三脚から生えているW1/4ネジは1cmも無いほどの短さなので、ナットで留めるのはあまり現実的ではありません。現実的なのは後者です。

写真はどこのご家庭にもあるタップとダイスの箱売りセットです。この中からW1/4のタップを取り出してアルミ板などに雌ネジを切れば、 三脚の雲台と接続できるマウント部分が出来上がります。実際に作ってみたのがこれ。右側の穴に雌ネジが切ってあります。

こんな風にW1/4ピッチでアルミ板に雌ネジを切って、その板の四隅にネジ穴を空け、赤道儀本体の裏面にネジ止めして使います。 こうしておけば、市販のカメラ三脚に赤道儀を載せて使うことが出来るようになります。ちなみにこのアルミ板は、厚みが5mm程度、 幅4cm程度、長さ10cm程度の物を購入しました。

整理すると、望遠鏡を載せるためにはアリミゾが必要になりますが、カメラで星野撮影程度なら市販のカメラ用品の流用しやすさも考慮して、 W1/4規格のネジとタップで雌ネジを切ったものが便利で使いまわしが効くということになるかと思います。

要件6:歯車と回転ムラ … ピリオディックモーション

例によってさっきの図です。

一般的な赤道儀ではこのクリーム色の部分を駆動する際に、クリーム色の軸に歯車を固着させておいて、 その歯車をモーターで回転させることによって恒星時(23時間56分4秒)毎に1回転させることになります。

この歯車の歯数として一般によく用いられているのは144枚歯らしいのですが、これがクセモノになります。

一般に高精度な歯車としてはインボリュート歯車が用いらますが、赤道儀も同様です。このインボリュート歯車の詳説は省きますが、 基本的には回転ムラとか回転時の摩擦とかが小さい歯車だと思ってください。

インボリュート歯車を使うと、理論上は回転ムラや摩擦が殆ど生じないというメリットがあるはずなんですが、 「工業の世界」では機械加工精度というのは「必ず」誤差を伴うものなので、現実には回転時に摩擦を誤差も生じることになります。

具体的には、歯車の歯1枚1枚を通過するたびに、速度が速くなったり遅くなったりすることになります。 歯車1枚毎に速度が速くなったり遅くなったりする…つまり周期的に誤差が生じることになるため、周期的な動きの誤差 …ピリオディックモーション(もしくはピリオディックエラー)と呼ばれます。

歯の数が144枚であれば、24時間×60分÷144=10分なので10分周期で速度が速くなったり遅くなったりすることになります。

これは、モーターと薄緑色の中間の歯車構成には関わらず、最終段(薄緑部分に直結している歯車)の歯数によって生じます。

ピリオディックモーションを小さくするために現実的に取る事ができる選択肢は、 機械制御の観点では「歯の数を多くする」という程度の対策がありますが、歯1枚1枚を小さくするにも限界があります。

一方、高倍率の望遠鏡を使って高精度の写真を撮ろうとした場合、「オートガイダー」と「ガイドスコープ」という補正機器を用いることがあります。

オートガイダーとガイドスコープとは一種の望遠鏡+機械の目のことで、CCDの目で「ガイドとなる星」を見つめながら、 その星が視界からズレそうになったらモーターの動きに補正を掛けて、常に星が視界の中央にあるようにする機械です。市販されています。 これを使うと、ピリオディックモーションやモロモロの誤差が生じそうになってもそれを補正してくれるので、 あたかも誤差が無かったかのように追尾してくれることになります。

動作原理自体はシンプルといえばシンプルですが、実際に自前でこんな制御機構を自作するとしたらかなり厄介です。

ちなみに歯車の数を極力多くできるなら、ピリオディックモーションの周期が短くなると同時に1枚1枚のエラーの絶対値も小さく収めることができます。

纏めると、ピリオディックモーションの影響を小さくするためには、ガイドスコープを使うか歯数を多くするかのどちらかということになります。

要件、その他:極軸合わせについて

赤道儀は、地球の自転軸と並行となる軸で回転することが必要です。赤道儀を三脚に載せた後、 自転軸と赤道儀の回転軸を並行となるように調整しないといけません。この調整を「極軸合わせ」といいます。

極軸望遠鏡は赤道儀には本来含まれないんですが、極軸を合わせなければ星をキチンと追尾することは出来ないので、 絡めて考えることにします。

さてこの回転軸をどうやって調整すればいいのでしょうか?

市販の赤道儀の場合、回転軸と並行を向くような小型の望遠鏡…極軸望遠鏡…を搭載できるようになっています。何度も出てきた図…

この図の薄緑色のところを中心軸にしてクリーム色の部分が1恒星日あたり1回転をしているわけですが、 この薄緑色の中心軸が地球の自転軸と並行になっていればいいわけです。

極軸望遠鏡は一種の望遠鏡なんですが、この薄緑色の中心に取り付けて使います。 図の左下から右上方向を覗きこんで、北極星が中心付近に見えるように調整します。 図の右上に向かう矢印が極軸望遠鏡の向いている方向で、その先には北極星があるよ、という図だったわけです。

地球の自転軸を北極星方向にずーーーーと伸ばしていくと、ほぼ北極星方向に伸びて行くから、 極軸望遠鏡を北極星方向に向ければ自動的に自転軸と回転軸が並行になるというわけです。

厳密に言うと北極星は自転軸の延長線から約1度ほどズレています。そのため、極軸望遠鏡はその「1度のズレ」を意識したつくりになっています。

その1度のズレを踏まえると、どのように極軸を正確に合わせたらよいのでしょうか?

極軸望遠鏡を覗きこむと、こんな十字の線や輪っか、そして北極星にあわせるためのマークが見えることになってます。 この十字の線などを「レチクルパターン」といいます。

詳しい使い方は極軸望遠鏡のマニュアルなどに書いてあると思うので端折りますが、 極軸望遠鏡もしくは赤道儀に書かれている目盛を「当日の日付」と「現在時刻」にあわせて回転させてから、北極星マークのところに北極星を重ねると、 十字の中心が「天の北極」を指し示すことになります。赤道儀の回転軸と極軸望遠鏡の中心は一致するように作られているので、 赤道儀は「天の北極」を中心に回転することになり、正確に地球の自転の逆回転ができることになるというわけです。

極軸望遠鏡を覗き込んだ写真は用意できなかったので、こんな物を持ち出してきました。

以前ミザールで売られていた物です。 極軸望遠鏡を覗き込んだ時とほぼ同じようなパターンが書かれた指示盤です。 このように輪っかと日付・時刻が書いてあって、グルグル回転するようになってます。

北極星をあわせる位置は中央付近にあるマークのところ。その北極星の位置は1990年、2000年、2010年という風に年度別に記入されていますが、 これは「歳差運動」によって「天の北極の位置」が年々ズレて行くという事情に因ります。詳説はしませんが、ご興味がある方は 「歳差運動」で検索してみてください。

自作の赤道儀となると、正確な極軸望遠鏡をゼロから作成するのは難しいと思われるので、少し視点を変えて「極軸望遠鏡に頼らない極軸合わせ」 ということを検討してみたいと思います。その件は後ほど触れます。

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